鎖港に新しい神様がやってきた! 貴重な伝統儀式「請王」を見学
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鎖港にある「北極殿」というお寺で「請王」が執り行われました。北極殿の主神は「玄天上帝」という北方を守護する神様なのですが、それとは別に「五府王爺」という神様もいます。
「王爺」というのは道教では比較的ポピュラーな神様で、他の神様とは違って天界を行ったり来たりする特徴があります。王爺には下界の出来事を記録して天界に報告する役割があるので、いわば人間界の監視役といったところでしょうか。
王爺のいるお寺には「王船」という船がある場合がほとんどで、王爺は天界に帰る時にこの船に乗って帰ります。王爺が天界に帰るときには「送王」という儀式が執り行われ、その際には王船に王爺を乗せて海に流すか、もしくは船ごと燃やすことによって王爺を天界に送ります。
以前は本当に海に流すことが多かったようですが、今は燃やすことが多いそうです。いろんな大人の事情があって海に流さないのだと思いますが、王爺が漂着した地域が新たに王爺を祀らなければならない負担を考えて、というのも理由の1つのようです。
ちなみに澎湖には189のお寺がありますが、そのうち41のお寺で王爺が主神となっており、澎湖ではもっとも多い神様です。それというのも、澎湖が離島だったため海から王船が流れてくることが多かったからなんですね。
王爺の他にも、海で拾って祀られた神様は数多く澎湖に存在します。澎湖はお寺の密集度が台湾で一番なのですが、このようなものが影響しているわけですね。
なお、王爺が主神となっていない寺院でも客神として祀られていることもあります。というか一般的には王爺は客神として祀られるのですが、澎湖では例外的に主神として祀られる場合が非常に多いのです。
送王については台湾の「東港」のものが非常に有名で、台湾の宗教を紹介する時にはたびたび東港の送王の写真が登場します。澎湖でも2017年の12月に外垵で送王が行われることになっています。外垵のお寺は大規模なので盛大なものになるでしょう。
新しい王爺が鎖港に
今回請王を見学した鎖港の北極殿では今から2〜3年前に送王をしたようで、その時から王爺が不在でした。そこで神様にお願いをし、新しい王爺が鎖港にやってくることになりました。
果たして、新しい王爺がやってくる方法は一体どのようなものなのでしょうか。今回は、鎖港の北極殿の請王をご紹介いたします。
さて、王爺には朝の9時ごろに来てもらうようにお願いをしてありましたが、実際の儀式はまだ薄暗い6時ごろからすでに始まっており、北極殿を覗くと小法が行われていました。
小法というのは子どもが行う儀式のことで、お寺で行事がある際には必ず小法が行われます。小法の儀式や歌によって神様が天界から下界に降りてきて本格的な儀式が始まるのが一般的な流れです。
この時、神様が人間の体に乗り移る場合もあり、神様に乗り移られた人は「乩童(ジートン※台湾語読み)」と呼ばれます。乩童は仕事として行うものではなく、普通の人が神様に選ばれてするものなので、乩童になりたくてもなれない場合や、反対になりたくなくてもなってしまうこともあります。
乩童(ジートン)も現れた
今回はまず北極殿の神様が人間に乗り移り、乩童となって現れました。その後、近くの集落「井垵」の北極殿からお神輿に乗って井垵の乩童が鎖港にやって来ました。山水と鎖港に分かれる大きな交差点で踏涼傘と乩童同士の挨拶をした後、北極殿に戻ってお参りをし、他の神様が集まってくるのを待ちます。この時、乩童からは神様が抜け乩童役の人はぐったりとしていました。
待ち時間が長いので辺りを散歩してから戻ってくると、一度人間の体から抜けた神様がまた人間に乗り移るところでした。また、同じころに北極殿のなかから神様の人形が外に運び出され、お神輿の中に収まっていました。
そうした作業をしている間に突発的に乩童があちこちで現れ、それぞれが各々の神様の衣装を着せられてお神輿に飛び乗りました。
王爺は海からやってくる
全ての神様が揃ったら出発です。さて、どこに出発するのかというと、行き先は鎖港の漁港でした。新しい王爺は海からやってくるので北極殿の神様が海まで迎えに行くというわけです。
漁港に到着すると普段魚市場が開かれる場所に大きなテーブルが設置されており、そこから海までまっすぐに青い道が準備されていました。王爺はこの青い道を通ってやってくるのです。
港に着いてからはまず、海に向かって右手に用意された祭壇で小法が長々と執り行われました。最後に海から何かを引き上げていたようなのですが、残念ながら見えず。
小法の後は導師によるお祈りが大きなテーブルの前で行われ、途中で乩童が現れたりポエ占いをしたりしていました。
ポエ占いとは道教において神様と人間が対話をする際に使う三日月型の2つの木(ポエ)を床に投げるものです。対になった三日月型のポエは表側が膨らんでおり、反対側は平らになっています。これを投げると「表・表」「裏・裏」「表・裏」の3種類の落ち方をするのですが、通常は表・裏のペアが3回出ると神様からの「OK」という印になり、その他のパターンは全て「NO」の意味になります。
このポエ占いでは3回目にNOが出て年配の導師らしき人に相談をしているシーンもありましたが、いつの間にか(導師たちにはいつの間にかではないのでしょうが)新しい王爺が5人の乩童達に乗り移っていました。
5人の王爺と5人の乩童
五府王爺というのは、簡単にいうと5つ(五)の姓(府)の5人の王爺という意味で、鎖港の北極殿の場合は、それぞれの王爺が「梁・田・柳・甘・呉」の姓を持っています。順番にも意味があり、ざっくりと説明すると梁府が一番位が高く、田・柳・甘・呉の順に位が低くなっていきます。
この5人の乩童はお寺を出発する時には他の神様が中に入っていたのですが、王爺を迎える時には中身が入れ替わったそうです。
また、どの乩童がどの王爺かを判断するには、それぞれの乩童が持っている神具を見れば分かるとのこと。しかしそもそもどの乩童にどの王爺が入っているのかを判断する方法は分かりません。どうやら分かる人には分かるそうです。不思議ですよね。
無事に5人の王爺を迎えた後は、乩童がお神輿に飛び乗って鎖港の集落を歩いていきます。その前に、漁港のすぐ近くにあって鎖港で一番大きな「紫微宮」に挨拶に行きました。紫微宮には「紫微」という道教で位の高い神様が祀られています。ちなみに紫微を主神としているお寺は台湾では非常に少なく、澎湖の紫微宮はその代表の一つです。
お寺での挨拶はド迫力
さて、お神輿や乩童はどのように他のお寺で挨拶をするのでしょうか? ほとんどの場合は、まず涼傘手(涼傘を持って演舞をする人)が踏涼傘という武闘に似た動きを披露し、涼傘手が後ろに控えているお神輿に手招きなどで合図を送ります。合図を受けたお神輿は通常、3回前後に動いて次の場所へ進むのですが、鎖港の場合は他の地域には無い特徴があります。
それは、乩童が乗っているお神輿が縦横無尽に勢いよく動き回るというものです。これはとても迫力があり、相当注意していないと涼傘手は踏涼傘が終わる前にお神輿にぶつかって演舞を続けることができなくなってしまいます。そのため、涼傘手の間では鎖港のお神輿は恐れられています(苦笑)
途中で見物人にぶつかりそうになったり、持ち手が転んだり物を落としてしまうのは当たり前のとても激しい動きです。見物に行く方は十分気をつけましょう。
お神輿が通る道の前の家では玄関にお供え物と爆竹や花火を用意されています。そしてお神輿が通るタイミングで派手に爆竹を鳴らします。爆竹を鳴らして盛り上げることで神様を歓迎するというわけです。
台湾の都市では騒音のため爆竹の利用は控えられていますが、澎湖では爆竹は鳴らしまくりなのでこちらもまた迫力があります。爆竹の煙のなかに浮かび上がる乩童とお神輿はより神秘的な感じがします。
王爺からの預言
元の北極殿に戻ると、紫微宮の時と同じように踏涼傘とお神輿で挨拶が行われます。全ての神様の挨拶が終わると、儀式の舞台はお寺の中へ。この時点でほとんどの見物人は家路につきますが、お寺のなかを覗くと乩童による舞と預言が行われていました。
預言は一般の人が聞くと何を言っているのかさっぱり分からないので、この時には必ず通訳の人が乩童の横に付きます。以前通訳をしている知人にどのようにして理解しているのか聞いたところ、雑音の中に言葉が紛れているから訓練をすれば誰でも分かるようになるとのことでした。が、相当な訓練をされているのでしょう…。
一通り預言が終わると乩童の中から神様が抜け、乩童役の人はしばらく気を失います。その後、王爺が座っているであろう空の玉座や他の神様が北極殿の中に戻り、他の地区から駆けつけたお寺の代表者の挨拶などをして儀式は終了となりました。
大まかな流れはほとんどの行事で共通していますが、王爺がやってくる瞬間を目撃した(姿は見えてないけど)のは初めてだったのでとても新鮮でした。5人もの乩童が揃ったのは珍しかったですし、噂に聞いていた鎖港の激しいお神輿も見れて良かったです。
ただ心残りなのは腰痛のせいで涼傘手になれなかったこと…。今回は師匠や兄弟子、兄弟弟子の涼傘を見学するだけでした。ところで今日はマラソン大会もあったのですが、マラソンを走った後に涼傘手になっていた兄弟子がいました。さすが警察官。体力があるなーと思いました。
こうした伝統行事も澎湖の魅力の一つ
また、朝の5時からは紅羅にあるお寺の王船の開眼式もありました。こちらはうっかりしていて行きそびれてしまいましたが、紅羅もこれから行事が立て続けに行われます。これから来年の元宵節まで貴重な行事がたくさん行われますよ。以下の写真は王船研究グループの提供です。
澎湖の魅力はビーチだけではありません。文化大革命で失われた伝統的な道教儀式が、澎湖にはほぼ完璧な形で残っています。知られざる伝統の世界に飛び込めるのも澎湖ならではの魅力です。
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